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17.8代前と10代前

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注意:この作品はフィクションです。実在の人物、団体とは一切関係ありません。

霊能者

「行者様、この人はうちのお友達の村上沙夜(さや)さん。
 ご自分で商売してはるんやよ。」
「村上です。」
初老の二人の夫人が訪ねたのは、街から少し離れた場所に有る古びた民家だった。

行者と紹介された中年の男性は、肩から結袈裟をまとった白装束姿で、手には長い念誦をかけた山伏のようないで立ちであった。
何宗とも判然としない、仏壇だろうか、祭壇だろうか・・に背を向けて胡坐をかいている。
長年いぶされ、煤けた屋内に、もうもうと強い匂いの線香を炊いて、柱や壁には一面虫ののたくったような字で書きなぐった札が貼られていた。

沙夜は、その雰囲気にすっかり気を呑まれて、いごこちが悪そうに身を縮めていた。

~・~

「どうや、サヤちゃん、霊験あらたかやろ」
友人の木場昌子(きばまさこ)が言った。
沙夜は、昌子に誘われて、霊厳斎と名乗る自称霊能者を訪ねていた。

「まあ、そないに堅くならんでもよろしい。」
霊厳斎はいかめしいいで立ちに反して、気さくに声をかけてきた。
「今日はどないして訪ねてきましたんや」
「いえねえ、行者様
 今日はうちの方から誘うたんですわ。」
昌子が沙夜に代わって喋り始めた。

「この人、新地の方でずっと小さな小物を扱う商売をしてはったんですけど。
 ご主人は勤め人でね、40年以上真面目に勤め上げた会社を最近退職しはって、この人の店でも手伝いながら悠々自適に暮らそうと思ってはった矢先やったんです。
 急に頭が痛いといって倒れはって、それっきりですわ。
 そうかと思うたら、一緒に暮らしている長男はんが、今度は仕事場で大怪我をしましたんや。
 それで、もう何ヶ月も入院せんならん言うて、ほんまに弱り目に祟り目でしてな。」
「ちょっと、昌ちゃん、そこまで言わなくても」
「いや、サヤちゃん、こういうことはきちんとお話ししとかなあかんやないか。
 それでなあ、つい昨日なんかも、この人が住んではる家からぼやがでましてなあ。
 家にはこの人と、お嫁さんと中学生の男の子だけでっしゃろ。
 未だに片付かんと難儀してはるんですわ。」

「それは随分と難儀してはりますな」
そこまで聞いて霊厳斎が口を開いた。
「それで、うちが、これは絶対なんかの祟りや、って言うて。
 ちょうどうちが長い間世話になっている行者様がいてはるから、とひっぱってきましたんや」
「うむ、さよか。よう分かりました。
 どれ、今日は木場はんの顔を立てて、特別に見てしんぜましょう。」

~・~

霊厳斎は、仏壇だか、祭壇だかに向き直り、頭を低く下げ、手を頭の上に組んで低くうなり始めた。
「ほら、サヤちゃんも、一緒に頭下えな」
昌子に促されて、沙夜も一緒になって仏壇だか、祭壇だかに頭を下げた。
切れ切れに霊厳斎のつぶやく文句が聞こえてくる。あれは山伏の経のようなものだろうか。
むせ返るような線香の煙の中、意識が朦朧としかかっていた。
心臓がすこしづつ早鐘を打ち始めている。

「村上はん!」
唐突な霊厳斎の声にハッと顔を起こすと、何時の間にやら霊厳斎はこちらに向き直り、右手の念誦をズイッとこちらに突き出してきた。
「ご主人の名前は村上昭午(しょうご)はんで間違いないか?」
「えっ、はいそうです。
でも、どうしてそれをご存知なのですか」
心なしか霊厳斎は、少しニヤリとしたように見えた。

8代前

「良かったなあ、サヤちゃん。」
「う、うん・・・。」
戸惑い気味に沙夜は応じた。
沙夜と昌子の二人は霊厳斎のところを辞し、家路をたどっていた。
(悪い夢でも見ているようだわ・・・)
沙夜は先ほどまでの出来事を心の中で反芻していた。

~・~

「ご主人の名前は村上昭午はんで間違いないか?」
「えっ、はいそうです。

 でも、どうしてそれをご存知なのですか」
「わしはのう、今あんたのご主人はんと話をしとったんや。」
「えっ、まさか」
「ほんまのことです。
 あんたら、もとは会社の先輩と後輩やったんやろ。
 馴れ初めは、あんたの新人歓迎会の時や。
 慣れん酒を飲みすぎて動けんようになったあんたを、男気を出しておぶってきちんと家まで送り届けたんやってな。」
昔の出来事をすらすらとまるで目の前で見ていたかのように話し始めた。
「もう40年近くも前のことです」
沙夜は薄気味悪く感じながらも、だんだんと圧倒されつつあった。
(霊能者と言えばインチキばかりと思っていたけど、この人は本物かも知れない)

「さてとや、村上はん」
居住まいを正して、霊厳斎は声を堅くして言った。
「ご主人はんが言うわはるにはな、あんたから数えて8代前の母方の先祖が祟っておるそうなんや。」
「母方の・・8代前ですか」
(母方の8代前といわれても、3代前もどんなひとだったか怪しいのに・・・)
沙夜は言葉を継いだ。
「それで8代前のどんなひとなんですか?」
「それがなあ、ご主人はんも、どうもハッキリせんらしいんやわ。
 声をかけても向こうを向いて顔を見せん。
 ただ凄うおこっとるらしい。
 8代後のあんたや子供に禍をなす言うて、ごっつう恐いらしいで」
霊厳斎のその言い方に凄みがあった。

思わず「ど・・どうましょう?」と聞かずにおれなかった。
「ようは、きちんと供養をすることや。
 わしの霊力をもって供養をすれば間違いのう鎮まってくださるはずや。
 ただ、問題はその先祖はんが自分の名前を教えてくれんのやと。
 それでは幾ら供養をしても、自分のことやと分かってもらえんので困るんや。」
「はあ・・・」
「それでな、あんた、実家かなんかで家の家系図を手に入れてくれまへんか。
 それで8代前の先祖はんの名前がわかれば供養もできるはずや」

~・~

(8代前か・・・)
確かに、ここのところ不幸続きで、まるで何か祟っているのでなかろうか、と恐ろしくなっていたところだった。
そこにあの霊能者の言うことが本当ならば腑にも落ちる。
まあ、こういうことは世間でもよくあることだし、人が死ねば盛大に葬式や法事を行って霊を慰めると言うから、ここは一つ任せてみようか。

・・・そう沙夜も心に決めたのだった。

沙夜と千代

「なあ、おかあちゃん、おかあちゃん。」
沙夜は、家の奥の母親に声をかけた。

母親の河田千代は、沙夜の隣町に一人で住まいしていた。
3人いた子供達は、みな外で家庭を築き、千代も気楽な一人暮らしを好んで、長らく住み続けた家に留まっていた。
それでも80を幾つも過ぎた母親をほおっておくわけにもいかず、一番近くに住んでいる沙夜がたまに顔を出して世話を焼いていた。

「何や、あんたは。
 最近ちっとも顔を出さんと・・・。
 今日はいったい何の用事があって来ましたんや。」

そう言われると沙夜も心苦しい。
夫のこと、息子のこと、店のこと、そして火事のこと、いろいろ重なって最近あまり顔を出せていなかったのだ。
「いやな、おかあちゃん、うちとこの家系図知らんかと思って」
いつも標準語でしゃべる沙夜も、母親の前ではついつい地元の言葉に戻ってしまう。

「家系図・・・?
 またあんた、いつも急にそないなこと言うて。
 子供の頃からちっともかわらんな。
 そんなもの、何に使いますのや。」
「いや、その8代前がな・・・。
 ええんや、なんでもない。
 それより家系図知らんか。」
「わてがそないなもの持っとるはずないやろ。」
「そやろな」
「まあ、あるとしたら、わての実家の手次の寺に残ってるかも知れんわ。
 実家は代々門徒総代を勤めてきたから、名簿かなんか有るかも知れんで。」
「実家か、京都やな。
 もう30年近く行ってないけど、大丈夫やろか。」
「心配せんでも毎年の年賀状は欠かしとらんよってに、電話一本入れといたるわ。」
「そう、助かるわ」

「それよりあんた、今からデイサービスについてきてくれんか。
 この間転んで腰を打ってから、歩くのがしんどいねん。
 手を貸してもらえると助かるんやけど。」
「ごめんな、おかあちゃん、すぐまた行かなあかんねん。
 また顔出すから今日は堪忍な。」
「・・・まったく一人で大きうなったように思って薄情なもんやで。」

京都

次の、店が休みの日、沙耶は孫の拓斗(たくと)を伴って京都を訪れた。

「なあ、ばあちゃん、もう昼やで。
 どっかでご飯たべようや。」
「そんなこと言って、まだ11時じゃないの。
 用事が済んだら近くで、うどんでも食べよ。」
「ばあちゃん、俺カツ丼がいい。」
 たわいもない会話をしながら二人は山門に続く階段を登っていった。

山門をくぐると、ちょうど玄関からでてくる住職と出会った。
「おお、沙夜ちゃんか。
 何十年ぶりやろか。
 山下さんから連絡があってな。
 今日千代さんの娘の沙夜ちゃんが行くから頼む、いうてな。」

山下家は千代の生家である。
住職は千代と幼馴染で、やはり80を幾つも越えている。
しかし、それをまったく感じさせぬほどカクシャクとしていた。
沙夜も子供のころ、里帰りした母に連れられて、よくこの寺にも遊びにきていた。
だから、住職とも旧知の間であった。

「8代前の先祖の名前が知りたいやて。
 なんでまた、そんなこと知りたいんや。」
「まあ、和尚様には言いにくいんですけど、じつは私ある人に見てもらいまして。
 それで、8代前のご先祖を供養するように勧められまして。」
「なんでまた8代前なんや。」
「その・・・凄く怒っているらしくて、怒りを沈めないと、もっとたいへんなことになるぞ、って言われまして」
「・・・まあ、ええわ。
 そちらの子お孫さんかいな。
 今日、学校はいいんかいな。」
「今日は学校の創立記念日とかで。
 父親は今病院ですし、母親も勤めに出て一人ぼっちになるので連れてきたんです。」
「そうやったんかいな、
 まあ、ここでは何や、縁側にお上がり。」
 そう言って住職は、二人を縁側に招いた。

沙夜と拓斗は招きに応じて、掃き清められた庭の奥の縁側に並んで腰をおろした。
秋の陽が縁側に日なたをつくっていた。
目の前の庭の植え込みは色づいて、はらはらと葉を落としていた。
その間を雀がチュンチュンと鳴きながら飛び跳ねている。
(ああ、やっぱり京都はいいなあ・・・)
街中の喧騒を離れて、心がしっとりと落ち着くのを感じていた。

家系図

「8代前というと、だいたい200年前くらいかのう
 どれ、おお、あった。
 ちょうど今の当主から数えて8代前、『山下・・・孫衛門』という御仁やな。」
台帳を繰りながら奥から住職が現われた。

「『山下孫衛門』ですか。侍みたいな名前ですね。」
「いや、あんさんとこは代々名字帯刀を許された家やったんや。
 そやけど、ご先祖はんの供養や言うて、また妙なものにかぶれたもんやな。」
「はあ・・・でも」
「なんや、坊主は先祖供養が仕事やと言いたいんかいな。
 そないなこと言うたら、お釈迦様が泣かはるで。
 昔インドでお釈迦様がお説きになったのがお経や。
 それも当時の生きている人達の前でや。
 死人のためやないで。」
住職は、言葉を継いだ。
「それになあ、先祖、先祖言うて、あんたに一番近しい先祖は誰や?」
「それは・・・母です。」
「そうやろ、できたてほやほやの先祖や。
そんな8代前の先祖を供養する前に、ちゃんと1代前の先祖に親孝行できとるか?」
沙夜は言葉に詰まって困ってしまった。

「まあ、ええわ。
 うちとこで漬けた梅干や、食べや。」
 そういって、住職はお茶と一緒に鮮やかな色の梅干を勧めてくれた。
「ばあちゃん、これ酸っぱいわ。」
梅干を口に放り込んだ拓斗が、見る見る酸っぱそうな顔になった。
沙夜も一粒口に放り込んでみた。
住職に言われた言葉と、梅干の酸っぱさが口いっぱいに広がった。

それから

それから半年後、沙夜は喫茶店で昌子と待ち合わせていた。
「なんや、サヤちゃん。浮かん顔やな。」
「うん、ちょっとね。」
「また息子さん悪いンかいな」
「そっちはおかげさまで大分いいんだけど・・・。
 ちょっと、拓斗がね。」
「タクちゃん、なんかしたん。」
「なんかしたん、というより、なんかしないから困ってるの。
 登校拒否って言うの?もう2週間に学校に行っていないのよ。」
「親はなんて言うてますねん。」
「父親は『ほっとけ、そんなときもある』ってさっぱりしたものよ。
 母親はそんなわけにいかないから、怒ったりなだめたりしてるわ。
 でも、ぜんぜん駄目。
 『俺は行かない』の一点張りなんだから。」
「また、難儀やなあ。
 せっかく、ご先祖はん供養してもろうたのに。
 そうだ、また行者様に見てもらうおうか?」
「ちょっと・・・いいわよ。」
「あかん、あかん・・・8代はん、まだ怒ってはるかも知れんやろ。
 決めた、昼からいこ!」
 どうも、昌子には叶わない、そう沙夜は心のなかで思った。

~・~

京都から帰った後、沙夜は昌子にともなわれて、また霊厳斎を訪ねた。

霊厳斎に『山下孫衛門』の名前を告げて、供養をしてもらったのだ。
供養には、50万包んだ。
昌子に言わせれば相場だそうだ。
決して、楽に出せる金額ではなかったが、これで8代前が鎮まるなら、と預金を崩した。

そして、供養の後、息子の怪我も癒え、また元通りの平穏な日々がしばらく続いていた。
(ああ、これで良かったのだ・・・)そう思っていた矢先のことだった。

~・~

霊厳斎を訪ねることに話が決まった後も、昌子のしゃべりは止まらなかった。
「それでなあ、大山はんったらな・・・旦那はんともめてな。
 あんまり頭来たもんだから、靴下でダシを取った味噌汁を飲ましたんやと・・。」
「ねえ、ちょっと昌ちゃん、前から思っていたけど、誰の前でもそんなふうにお友達の話をするの?」
「えっ、そうかいな。うち、そんなにしゃべりかいな。」
「まあ、呆れた。自覚ないんだ。
 まさか、行者様の前でも、私の話をしていたの?」
「えっ、そうかな・・・。
 よう覚えとらんわ。
 あの行者様、とても聞き上手やってな・・・。ついついいらんことまでしゃべってしまうんやろか。」

(まさか、あの霊能者、随分私のこと詳しいと思っていたら、こんなところに情報屋がいたのね。)
百戦錬磨の霊厳斎からすれば、しゃべりのおばはんをおだてて、いろいろ聞き出すなど手もなかったであろう。
わずかだが、沙夜の心に霊厳斎に対する疑念が生まれたのだった。

10代前

「よう来なはった。その後、どないですか?」
「行者様、またちょっと、よろしいないねん。」
「うむ。禍福はあざなえる縄の如し、というからなあ。
 まあ、それでわしのようなものが要るんやけど。」

昌子は、簡単に沙夜の困りごとを話した。
「それでなあ、まだ8代前はんが怒ってんのやないのか思うてきましたんや。」
今度は沙夜が言葉を引き取った。
「でも、行者様、そんな孫がちょっと学校にいかなくなったからって、祟りって言い出したらキリがないんじゃ・・・」
「まあ、待ちなはれ・・・。
 最近の日本人は先祖に対するおそれいうものがなくなって、あきまへん。
 福も、禍も、みんな先祖はんがたがくれはることを忘れとる。
 ちゃんと供養しとかんから、みんな不景気や、災害や、家庭崩壊やと、この体たらくや。」
「そんな・・・。」
「まあ、もういっかい、見てしんぜるからに・・・。
ご先祖はんの言うことよう聞きや。」
そう言って、霊厳斎は、また仏壇だか、祭壇だかに向いて頭を下げて、低くうなり始めた。

「うむ!
 今度祟っているのは8代前ではない。」
向き直りもせず、仏壇だか、祭壇だかに向いたまま、霊厳斎は喋り始めた。
「では、誰が・・・?」
「10代前じゃ!!!」
「なっ、10・・・代前???」
沙夜は思わず大きな声を上げた。
「そうや、10代前の先祖や、供養してしんぜるよってに、また名前を調べてきなはれ。」

(雑だ、雑すぎる・・・。私もなめられたもんだ。)
沙夜は頭に血が昇るのを感じた。
「ええ、加減にしいや。このガキ!!」
思わず、沙夜から地元の言葉が飛び出した。
「8代前の次は10代前かいな!
 それで、また次は11代前か!!
 しばくでホンマ!!!」
そうやって声を怒らせながら、霊厳斎を思いっきり後ろから突き飛ばした。
そのままの姿勢でつんのめった霊厳斎は、仏壇だか、祭壇だかに頭から突っ込んだ。
バラバラと仏壇だか、祭壇だかが崩れて、霊厳斎の頭に落ちてきた。

「あたた、何するんや!!あんさんは。
 こないなことして訴えまっせ!!」
そこに慌てて昌子が止めに入った。
「サヤちゃん、もう止めや!
 行者様もあかん!!
 このサヤちゃんはな、高校の頃、ごっつう悪かって、このへんの愚連隊にはみんな恐れられとったんや。
 それで、あんまりガラ悪いて反省して、今は標準語しか喋らんようになったけど、こっちの言葉でしゃべっとる時は、地が出とるから刺激したらアカン!」
「な、なんやて・・・。
 品のいいおかあはんやと思ったら、なんちゅう人連れ込みますねん。」
「そんな、こともわからんかったんか!このエセ霊能者が!!!!」
沙夜の怒号が空気を震わせた。

大団円

(50万、返ってこないだろうな・・・。あれだけ暴れて、もう恥ずかしくていけない。高い授業料と思うしかない・・・。)

次の日の午後、沙夜は孫の拓斗を伴って、千代のところを訪れた。
「おかあちゃん、おる。今日デイサービスの日やろ。
 迎えにきたで。」
「おやまあ、あんた、どういう風の吹きまわしや。
 拓斗まで。」
「俺もな、うちに居っても何もすることないねん。
 そやから、今日はばあちゃんにつきあたってんねん。」
「この親不孝もんが、雨でも降らんとよろしいけどな。」
「まあ、8代前より、まず1代前思うてな。」
「なんのこっちゃ。」
「まあ、なんでもよろしいわ。」

~・~

杖を突きながらゆっくり歩く千代と、それにつきそう沙夜、そして少し遅れて歩く拓斗、その3人の前に、中学生くらいの少女が近づいてきた。

拓斗がそれに気がついて声をかけた。
「なんや、お前、まだ学校の時間やん。」
「早引けしたんや。
 なあ、あんた、いつ学校戻るん。」
「もう、ちょっとや。
 ほとぼりが冷めたらな。」

「拓斗。この子、どちらさん?」
拓斗は照れくさそうに言った。
「いやな、あんまり言いたあなかったんやけど、こいつな同じクラスの大西やねん。」
「大西いいます。」
「こいつなあ、ちょっと鈍いとこあんねん。
 それでクラスでいじめられてなあ。
 俺、それ見て頭来て、その時あおとったやつ、しばき倒したったんや。」
「あんた、そう言えばボロボロになって帰ってきましたな。」
「でも、その後ちょっと学校に行きづらあてなあ。
 大西、その後いじめられてないか?」
「うん、大丈夫、おおきにな。」
「あんた、やっぱり、わたしの孫やなあ、あっはっはっは・・・」

沙夜の澄んだ笑い声が、秋の高い空に吸い込まれていった。

(おわり)