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07.新訳、シンデレラ

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注意:普通のシンデレラが好きな人は決して読まないで下さい。

意固地な娘

シンデレラは、ある裕福なお屋敷に生まれました。
ところが、シンデレラがまだ子供のころ、お母さんは流行り病で亡くなってしまいます。
母なし子になったシンデレラを憐れんでお父さんは、やがて後添いをもらいます。その後添いには、シンデレラより年上の3人の女の連れ子がいました。

新しいお母さんは、なんとかシンデレラに好かれようと努力します。
しかし、もとのお母さんのことが忘れられないシンデレラは、決して継母のことをお母さんと呼ぼうとしませんでした。
また、3人の姉のことも、お姉さんと呼ぼうとはしません。むしろ、完全に見下げて「お前たち」と下僕のように扱いました。
さすがに、継母もこれには耐えかねて父親に訴えますが、シンデレラの寂しさを気づかった父親は、継母に許してやって欲しいと頼みます。
かくして、シンデレラの傍若無人の行いが続くこと数年、後から来た負い目もあって、姉たちはすっかり小さくなって過ごしていました。そして、「いつか大人になって、こんな家なんか出ていってやる」と心に決めていました。

姉たちの復讐

しかし、今度は父親が事故で亡くなってしまいます。
血の繋がった家族が一人もいなくなったシンデレラは、天涯孤独の身の上を嘆きます。しかも、今まで母親と認めなかった継母に頼らなければ生きていくことはできません。
仕方なく、継母を「お母さん」、連れ子を「お姉さん」と呼んで歩み寄ろうとしますが、世の中はそう都合よくいかないのです。

立場が強くなった姉たちは、今度はシンデレラを部屋から追い出して、綺麗な服を取り上げます。そして、ボロを着せて、屋根裏部屋に住まわせました。
扱いは下働き同然で、「ご飯が食べたかったら、しっかり働け」と命じます。
継母も、最初は姉たちをたしなめていましたが、シンデレラの仕打ちを腹に据えかねていたこともあり、だんだん子供たちに同調するようになりました。

シンデレラは、あまりの境遇の変化に気も狂わんばかりでしたが、生きて行くには仕方がないと歯をくいしばって受け入れるしかなかったのです。
それから、シンデレラの名前通りの灰かぶり生活が始まりました。
もともと、ここは私の家なのに、後から来たくせして、お母さんぶって、お姉さんぶって、我が物顏に振るまっている。いつか、食事に毒を混ぜて全員殺して、屍体を井戸に投げ込んだら、どんなに気持ちがよいことか。

パーティーの夜

そんな夢想をしながら、過ごしていたある日のこと。
姉たちが朝から大騒ぎして、めかしこんでいます。シンデレラは、その手伝いに大わらわでした。
シンデレラは姉の一人にどうして皆んなそんなにめかしこんでいるのか尋ねました。
姉はあきれたように「まあ、シンデレラったら、何にも知らないのね。」と言いました。
「しばらく、外国にいっていた王子様が帰っていらっしゃったので、今日はお城で祝賀パーティーなのよ。そこには、国中の年頃の娘が呼ばれていて、そこで王子様のお妃選びをするそうよ。」
「まあ、王子様のお妃様なんて。私も行ってもいいかしら。」
「馬鹿ねえ、あなたなんか、お城に何を着て行くの。そのボロで行ってごらんなさいよ。たちまち、つまみ出されるわよ。」
姉たちを送り出したシンデレラは悔しくて、屋根裏の自分の部屋でボロボロ涙を流しました。
姉たちが着ていった服も、元はシンデレラの服だったのです。それをみんな取り上げて、自分たちの服に仕立て直したものだから、もうシンデレラに合う服は一着だってありません。
そして、シンデレラは姉たちの仕打ちを心から呪いました。

闇へのいざない

それが心の隙だったのでしょうか。
部屋の片隅で薄気味悪い声がしました。
「ヒッ、ヒッ、ヒ、そんなに彼奴らが憎いかい。」
ビックリして振り返ったシンデレラの目に、全身黒ずくめで、白くて物凄く怖い顔をした老女の姿が飛び込んできました。
その余りの恐ろしさにシンデレラは、腰が抜けて声も出すこともできません。
「ほら、怖がらなくても良い。わしは、お前の味方じゃ。お前、姉たちに復讐をしたいのじゃろう。」
「え、ええ、そうよ。死んでしまえば良いと思っているわ。」
シンデレラは、怖いのも忘れて叫びました。
「ほっ、ほっ、ほ。素直な娘じゃ、気に入った。ならば、お前の願いを叶えてやる。それだけじゃない。この世では、なんでも思うままに暮らさせてやる。」
「どうするの。」
「なあに、難しいことじゃない。わしの眷族になれば良いのじゃよ。さあ、その細い首をわしの方に向けるのじゃ。」
「きっとよ。」
そう言ったシンデレラの首に、その老女は噛みつきました。
「きゃーっ」そう叫んで、シンデレラはその場に倒れました。

しばらくして、シンデレラが気がつくと、あの恐ろしい老女はどこにもいません。
あれは夢だったのかしら、と噛まれた首に手をやると、鋭い痛みとともに手にべっとりと血がつきました。
「これは・・・」
そのとき、シンデレラは全身にみなぎる力を感じたのです。
「さあ、お前の願いを叶えるが良い。」
虚空から、あの老女の声が聞こえました。
そのとき、シンデレラの周りに真っ黒な霧が立ち込め、あっと言う間に彼女の体を包んだのです。そして、それは、豪華な真っ黒なビロードのドレスに変じていました。
「表に出て見るが良い。そなたの下僕たちが待っておる。」
シンデレラが表に出ると、黒ずくめの馬、黒づくめの馬車、そして黒ずくめの御者が待っていました。
「さあ、行くが良い。じゃが、わしの眷族になっても、まだそなたの力は弱い。その姿も12時の鐘と同時に元に戻ってしまうでなあ。城のものどもに気取られぬよう、くれぐれも気をつけるのじゃ。」
そして、シンデレラは馬車に乗って城へと向かいました。

二人の出遭い

城では、王子を囲んで盛大にパーティーが行われていました。
多くの娘に囲まれてはいましたが、王子は意に添った娘がいないことにウンザリしていました。
こっそりパーティー会場を抜け出し、外の空気を吸おうとベランダにやって来た王子は、全身黒のドレスに身を包んだ娘と出会います。
その全身から漂う妖気に王子はすっかり当てられ、娘から目が離せなくなります。
「そなた、名はなんと申す。」
「はい、シンデレラと申します。王子様、お会いできて光栄です。」
「なんと美しい娘だろう。どうか、私と一曲踊っては貰えぬか。」
それから、二人は連れ立ってパーティー会場に戻り、時間を忘れて踊りました。娘たちの羨望と嫉妬を一身に浴びたシンデレラでしたが、まさかそれがあのみすぼらしいシンデレラの変化であるとは継母たちも気がつきませんでした。

瞬く間に時は過ぎ、12時を告げる鐘が鳴った時、「王子様、申し訳ありません。私、もう行かねばなりません。」とシンデレラは王子の手を振りほどいて駆け出しました。
「あっ、待つのだ」
王子が思わず追い縋った時に、シンデレラはバランスを崩して、右足の靴をその場に飛ばしてしまいました。
ですが、次の瞬間、王子の手をスルリと抜けて、シンデレラは夜の闇に吸い込まれていきました。

さまよう王子

それからと言うもの、王子はシンデレラの残していった靴を見てはため息をついていました。
「美しい娘だった。いったいどこのだれなのか。手がかりと言えば、シンデレラと言う名前と、この靴ばかり。だが、それだけでは、とても見つけることは叶わぬ。」
そして、3日目の夜更け。
王子は、まだシンデレラの靴を見てため息をついていました。
その時、不意に王子の目が宙をさまよいました。そして、シンデレラの靴を片手に「シンデレラ、ああ僕の愛しいシンデレラ」とつぶやきながら夜の闇に消えていったのです。

次の朝、お城は大騒ぎになりました。
朝から、王子が行方不明なのです。
近隣のものに問い合わせたところ、夜更けに道を彷徨っている王子らしき人を見たというものも現れ、城から兵を繰り出して王子の捜索が開始されました。
しかし、王子の行方はようとして知れませんでした。
ところが、城を出て3日の後、ひょっこり王子が帰ってきたのです。しかも、なりはみすぼらしいままでしたが、あのシンデレラをともなっていました。
王様もお妃様も大喜びしましたが、シンデレラの姿を見ると眉をひそめました。しかし、シンデレラが笑いかけると、皆彼女の虜になってしまいました。
やがて、お城から、王子とシンデレラの結婚を告げるお触れが出されました。
さて、青ざめたのはシンデレラを苛めていた継母たちです。なにしろ、シンデレラが国一番の最高権力者の身内に収まりかえったからです。
どんなひどい目にあわされるかと、ビクビクして、ついには財産を処分して国外へと逃げ出してしまいます。
それを知ってシンデレラは悔しがりますが、時期が来るのをひたすら待ちました。

シンデレラの復讐

王子とシンデレラは、仲睦まじい夫婦でした。
また、王様もお妃様もシンデレラのことが、すっかりお気に入りでした。しかし、それはシンデレラの妖気に当てられて、心を奪われていたのかも知れません。
やがて、王様が原因不明の病気で亡くなります。続けて、お妃様も、ついには王子までもが、次々と死んでしまいます。シンデレラの発する妖気を吸って命を縮めたのでしょうか。
かくして、シンデレラは女王となり国を統治することになりました。
「時期は来たり」シンデレラはニヤリとしました。
家来たちを自由に動かして、国外に逃亡した継母と姉たちを探させました。そして、隣の隣の国で見つかったと聞くや、隠密裏に身柄を抑えて、城内に連れ込みました。

ガタガタ震える継母たちを、シンデレラは、「何を恐れていらっしゃるのですか。私にとっては、かけがえのない家族ではないですか。」と言い、城でたいへんな歓待をしました。
継母たちは、その言葉に安堵して、泣いてシンデレラに、それまでのことを詫びました。
その祝宴は何日も続きました。しかし、2日目には継母が、3日目には1番目の姉が、4日目には2番目の姉が姿を現しませんでした。
最後、あの日シンデレラを「お城に何を着ていくつもり」と小馬鹿にした姉は、今度は自分の番だと生きた心地がしませんでした。
シンデレラは、姉にプディングを勧めました。姉はそれを恐る恐る受け取ると、引きつった愛想笑いを浮かべながら、無理やりお腹に流し込みました。
シンデレラは、「お姉様、お味はいかがでしたか。」と聞きました。
「え、ええ、とっても美味しかったわ。」
「それは良かった。」とシンデレラは、テーブルの上の大きな入れ物の覆いを取りました。
それは、巨大なガラスのプディングの入れ物でした。そして、その中には、継母と1番目と2番目の姉が浮かんでいたのです。
それを見た最後の姉は口から血を吐いて死んでしまいました。
ついにシンデレラの復讐はなったのです。

そして奈落へ

その後、シンデレラは100歳まで長生きして、国を統治しました。
まさに、思うままの人生を生きたのです。
しかし、そのシンデレラにも最後の時は訪れます。
その臨終の枕元にも立ったのは、あの日の老女でした。

「シンデレラよ、そなた、この世に満足したかえ。」
「はい、良い人生でした。」
「では、わしとの約束を果たしてもらおう。」
「約束?」
「そうじゃ、わしの眷族になった以上は、わしたちの国へ来て貰わねばならぬ。」
「いったい何処へ?」
「怨み呪いの人生の末路は決まっておるわ。」
そうして、シンデレラの心は、老女に連れられて、暗くて底の知れない奈落へと堕ちていったのです。

(おわり)