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05.人類誕生

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ファースト・インパク

今から6,500万年前、彼らは始めて地球に降り立った。
強力な武器を持った彼らは、地球に跋扈していた巨大な爬虫類を数匹倒した。
それは味見をするために。
彼らは、食料を求めて宇宙を旅する流民であった。

しかし、鋭い牙と鎧に覆われた爬虫類は彼らの嗜好に合わなかったようだ。
彼らは、地球で食料を調達することをあきらめて、この星での狩りは次の機会に見送ることにした。

彼らは宇宙に飛び立って、地球から少し離れた空間に停泊している母船に戻った。
そして、母船からは地球目がけて強い光が放たれた。
それは、たちまち星全体を覆い、生けとし生けるものを殺し尽くした。
そして、彼らの死体を苗床に植物が育ち、また新しい生命が満ちる世界となる。
その日まで、彼らは食材を求めて、他の星での調査を続けるのだ。

再び地球へ

それから6,400万年ほど経って、彼らはまた地球を訪れた。
6,400万年と言っても、光速で宇宙を旅する彼らには数年分の時間でしかない。
それだけの時間がたった地球は、また生命の満ちる星となっていた。
以前は、鎧をまとった爬虫類たちが闊歩する世界だったが、今は暖かい血が流れる毛むくじゃらの哺乳類たちが支配する世界であった。

彼らはまた強力な武器をとって、しばらく地球での狩りを行った。
長い鼻の巨体の動物、不恰好に長い牙と鋭い爪を持った動物、いずれも彼らの嗜好にあっていた。特に木の上に生息している小さな毛むくじゃらな動物は彼らの舌にあったようである。

早速、彼らは母船から仲間を呼び寄せることにした。
母船は通常一部のオペレーターだけで航行している。いつも食料事情に悩まされている彼らは、殆どの仲間を人工冬眠装置内で活動停止させてこの深刻な悩みに対処していた。
潤沢な食料が確保できる星の発見により、彼らは人工冬眠装置から次々と仲間を目覚めさせた。軽いリハビリテーションの後、移送船兼当面の仮設住居に乗り込ませた。
地球から見る光景は壮観だった。次々と空から火柱に包まれて異形の船が降下してくる。
たちまち、地上に満ちた彼らは、この地球を巨大な食料庫に変えてしまった。

猿工場

食料は潤沢だった。ただ、調達の効率化と味の向上は常に求められていた。
木の上で暮らす、すばしこい猿の肉は特に好まれた。その未熟ではあるが、他の動物より発達した脳はたいへんな美味で、いつも希望者が殺到するため品薄であった。
やがて、巨大なケージで囲われた人工の猿工場が完成した。薬剤や過多の食料の摂取で不自然に太らされた猿達は、次々と工場のラインに乗せられ肉として出荷されていく。しかし、もともと体格が小さいので取れる肉の量も限られていた。しかも体にまとった毛皮の処理に時間がかかった。
そこで、彼らは猿に彼らの嗜好に合うような改良を加えていった。
まず、体を覆う体毛がない品種を作り出し、肉加工処理の効率化を図った。体格も徐々に改良し、2m近くにまで大型化に成功した。屠殺の後に簡単な処理をするだけで出荷できるので肉の供給不足は解消され、味もたいへんな人気であった。
さらに一番需要のある部位の脳も肥大化させることに成功した。
そして、このプロジェクトに参加した科学者には大きな栄誉が送られることとなった。

新たな需要

この新しい猿には一つ問題があった。成長までに十年以上かかるのだ。しかし、その点も技術が解決した。成長促進剤の投与で、1年足らずで成体とすることができたのだ。
食料の安定と同時に、この猿は彼らの娯楽にもたいへん貢献した。
他の動物と比べて特長有る外観と、調教もしやすいことがあって愛玩動物として各家庭に普及した。そのうち、成長促進剤を使用しない言わばオーガニックタイプも高値で取引されるようになった。
やがて、この体毛のない猿に服を着せることがブームになった。着飾っては、仲間内で見せびらかす催しも各所で行われるようになった。
そのうち、彼らは成長促進剤を使用しない固体がたいへんな知能を有していることに気づく。コミュニケーションを理解し、時には彼らの道具も器用に使ってみせる
脳の肥大化の結果もたらされた知能であったが、いままでは成長促進剤の影響でその特性が表面化しなかったのだ。
やがて、この新しい猿に彼らの仕事を手伝わせようという計画が練られた。
体系化した指示用の言語を教え、道具の使い方を教えた。その習得能力の速さに彼らは躍り上がって喜んだ。たいへんな富と繁栄がこの星にもたらされようとしていた。

開かれた戦端

しかし、地に満ちた彼らはやがて深刻な問題に向き合うことになる。
徐々に地球の支配圏を拡大していくうち、同属同士で遭遇することが多くなったのだ。肥沃な土地や、温暖な土地を争ってコミュニティ同士が戦闘を行うことが多くなってきた。
戦争で故郷の星を失った彼らは、同属同士の争いが同じ結果を招くのではないかと憂慮した。そこで、総督府から一つの提案がなされた。
領土問題の決着は、自分達が争うのではなく、お互い猿の軍団を組織してその戦闘の結果決するというものであった。
そこから各コミュニティでは、猿の軍隊が結成され日々戦闘訓練が行われた。彼らの持っている強力な武器も惜しげなく投入された。
そして、各地に強力な軍隊が登場したのだ。

総督府からの通達により、指定の日時に戦闘が開始されることとなった。
紛争中の各所には、猿の軍団が集結し、敵陣営の猿軍団と睨みあっていた。
すぐ後方では、彼らが大挙押し寄せて、ことの成り行きを見守っていた。
やがて、取り決めの時刻となり戦端が開かれた。
武器にエネルギーが充填され、敵陣営目がけて発射された・・・はずだった。

逆襲

しかし、第一撃は後方の彼らに加えられた。
猿達は同属との戦闘を好まず、その元凶である彼ら異星人を標的にしたのだ。
高度な知能を有し、コミュニケーションの仕方も教えられた猿たち。仲間達が日々食肉として処理されていることを理解した猿たち。さらに今また同属同士での殺し合いの道具にさせられている猿たち。
猿は仲間同士で連絡を取り合い、この過酷な運命を与えた相手に一撃を加える日を待っていたのだ。
今、まさにその機会が訪れた。後方の異星人たちはことごとく狩りつくされ、猿たちは都市部に進撃を続けた。仲間達を解放し、武器を与え、その勢いはたちまち星を飲み込もうとした。

いままで食べ物くらいにしか考えていなかった相手からの反撃に彼らは慌てふためいた。
すぐに保安部隊が派遣され鎮圧が図られたが、形勢はあきらかに不利であった。
彼らはだんだんと後退させられ、ついにはこの星の放棄を余儀なくされた。
とるものもとりあえず、彼らは母船へと舞い戻ろうとしたが、増えすぎた人口をもはや収容しきることはできない。そして、仲間の殆どを地上に残すと言う苦汁の決断を迫られた。
通常ならば、前回のように星を死滅させ、リセットしてやり直すのだが、仲間が地上にいるのでそのような手段は取れない。そこで、強力な電磁波を送って、猿たちの武器ごと、全ての文明を無効化した。その後、特殊な触媒で原型すらとどめない形に建物や乗り物、そして武器などの文明の痕跡を消去した。
仲間を殺すことはしなかったが、せめて文明の痕跡を消し、力をつけた猿たちが宇宙に進出して自分達のライバルになることを防ぎたかったのだ。それほど、彼らの猿に対する恐怖は強かった。
そして、異星人たちは涙を呑んで地球を離れていった。
その後、地上の異星人たちは猿達に狩り尽くされることになる。

人類誕生

やがて、猿達は独自の文化圏を築いていく。文明が消去されたことにより、全て一からのやりなおしであったが、初期のコミュニケーションのとり方と、高い知能は残された。
彼らは自分達をこう呼んだ。
人類と。

-・-

やがて、時間はたち、今度は人類が地球を巨大な食料庫と変えている。
バイオテクノロジーの進化により、まるで肉の塊のような動物も生み出した。
まるで、あの時の異星人たちのように。

(おわり)