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02. 婚役

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やもめ二人

<居酒屋にて>

仕事帰りの会社員の会話。
「お疲れ~」
「お疲れ~」
「そういえば、ここ今月5回以上来ているな。」
「独り身なればこその贅沢というやつだね。」

「そう言えば、俺達、今年いくつになる?」
「何、寝ぼけてんの?29だよ。」
「そっか、気がつけばもうあと1年か。」
「そう、あと1年だよね。」
「そう言えば、お前、誰かつきあっているとか娘いるの?」
「そっちこそ、どうよ。」
「俺は、もう『婚役』決定よ。
もう、どうにでもなれってとこだな。
でも、最近はそれもいいかな、って思えて来た。」

「俺もね、今度こそはと思ったんだけど、どうもちょっと合わなくてね。
別れようかと思うんだけど。」
「意外に、同期一のモテ男もに苦戦しているんだ。
でも、入籍まで考えたら、もう選んでいられないんじゃないの。
で、相手の娘はいくつ?」
「向こうは26歳なんだ。」
「えっ、崖っぷちじゃん。
別れ話なんか切り出したら修羅場になるぜ。」
「まあね。そこもいろいろと頭の痛いところでさ。」

この時代の事情

少し解説が必要かも知れない。
加速する少子高齢化に危機感を覚えた日本政府は、その原因を晩婚化と、生涯独身率の増加にあると分析し、適齢期までの結婚を法制化することとした。
名づけて、徴兵ならぬ『徴婚』、あるいは兵役ならぬ『婚役』制度である。

若者世代からすれば、まことにおせっかいなこの制度も、昭和生まれのお父さん・お母さん達、経済界や医師会、その他運送、農業、漁業等各業界団体の圧倒的支持を受けて成立した。
すなわち、『特段の理由のない成人男女は、男は30歳、女は26歳までに婚姻、入籍、および実態のある共同生活を開始するものとする。』
さらに、『最低2年間の継続を義務付けるものとする。』
『その期間、結婚生活を破綻させるような不貞、及び暴力的な行為に対しては厳罰を課すものとする。』
上記年齢までに結婚生活を開始できない男女は、政府開発のマッチングシステムにより家庭環境、相性、本人の希望等を考慮して伴侶となるべき相手を選別し、婚姻を行うことが義務づけられるのである。

それでも僕らは恋をする

「要は、結婚相談サービスのお上版だよな。」
「昔は『婚活』とか言って、男と女が出会うためにかなり苦労していたそうだ。でも、相手があることだから、必ずカップルになれるとは限らなかったらしい。特に、俺みたいな冴えないヤツは厳しかったろうな。
それが、政府が選んだ相手には『ダメ出し3回まで』ってルールがあるもんだから、どんな男でも、女でも必ずくっつくわけさ。
この間は、人気絶頂の女優が仕事を理由に結婚を伸ばしていたら、政府のチェックに引っかかって、一般人の男を紹介されたんだと。
それで、『絶対ないな』と思っていたら、結婚してうまくいっているって言うんだから。
まあ、夢のある話だけど、相手の男は、今頃『とってかわってやろ う』って言う、かみさんのファンの襲撃が怖くてビクビクしているそうだ。」

「だけど、結婚2年後に相当離婚しているとも聴くぜ。」
「でも、確実に既婚者の割合は増えてるし、出生率も上がっているぜ。」
「そうだな。」
「政府の方針で無理やり結婚させられて、人生むちゃくちゃになる人間がいたとしても、個人の都合は二の次ということだろうな。
ところで、その娘のこと、どうすんの。」
「それ蒸し返すかよ。
まあ、でもちょっと違うっていうか。
このまま結婚してもいいのかって心配になるんだ。」
「そりゃそうだけど、相手の娘のことも考えてやりなよ。
月並みだけど、人生には妥協も必要だし、『婚役』ってことになったら、お互い今より幸せになれるとは限らんぜ。」
「人のことだと思って気楽に言うなよ。
でも、恋に門限がある時代なんて幸せなのか?」
「贅沢なやつだなあ。」

男と女のことは難しい。夫婦は、前世敵同士だったとも言う。
自分達で決めたから幸せになれるとか、親同士や政府が無理やりくっつけたから幸せになれないとか、そんなことに誰が保証できようか。

でも、取り敢えず、恋多き男たちに幸あれかし。

(おわり)